森田富士夫のPoint of View

1歩先を知りながら、半歩先で話せること②

変化をいち早く察知して対応する判断力

経営者は常に変化に敏感で、変化を察知し、何が変わったのか、今後どのように変わろうとしているのかを分析し、その変化にいち早く対応する方策を示さなければならない。その分析力、判断力などが経営者には求められる。

このように経営環境の変化を察知する嗅覚、変化を分析する能力、変化に対応できるような方向性を示せる能力、そして方向転換を決断する勇気、先頭に立って再構築に取り組む指導力と行動力が必要である。

バブル崩壊後にも、リーマンショックや、近いところでは消費税増税後の内需の低迷などがあった。どのような場合でも、優れた経営者は外部要因の変化を分析し、素早く対応することで会社の進路を見失わないようにしている。

たとえば消費税が増税された2014年4月ごろを少し詳しく見ることにしよう。

荷主によっては、2013年度末の受注残を納品するために、2014年度になってからも荷物量が多く忙しかった事業者もいた。そのような状態が5月や6月ぐらいまで続いた事業者もいる。

このように2014年度の第1四半期は、前年同期と比べると忙しかった。だが、輸送量は増えているにも拘らず、採算的には前年同期よりも悪化したという事業者がいた。

あるいは4月に入ると輸送量が前年並みに戻った荷主でも、収益性が悪くなった事業者もいる。つまり昨年度の第1四半期は採算的に厳しくなった事業者が少なくなかったのである。

これにはいくつかの理由がある。荷主と取引先は2013年度末(2014年3月末)までに伝票処理を終わらせているが、納品が4月以降にずれ込んだというケースでは運賃(消費税)を前年度のまま据え置かれたからである。

また、2013度末までに納品が終わって4月以降は輸送量が前年並みになった荷主でも、運賃値上げは消費税増税の影響を見極めてからとか、あるいは同業他社の動向をみてからなど、4月からの運賃改定に慎重だったからだ。

一方、事業者の支払いは2014年4月から増加した。消費税増税分だけではなく、諸々の仕入れ価格が上がったからである。燃料価格も2014年度の第1四半期は高値で推移していた。つまり支払いが増加したために収益性が悪化したのである。

それに対して事業者側はどのように対応したか。まず運賃面では、「新年度からの値上げができなかった荷主には、4月以降も強力に値上げ要請を続けて実現した。それに伴って徐々に収益性が回復した」という事業者もいる。

あるいは「メインの荷主では基本運賃の値上げができなかったが、輸送(配送)効率の悪い荷物などについては基本運賃とは別の運賃契約にして部分的には値上げをしている」などである。

それに対して、社内努力としては「今まで以上に混載率(積載率)を上げるように努力してきた」とか、拘束時間などに違反しない範囲内で「運行形態を変えて車両回転率を上げるようにした」。あるいは「実車率を上げるような運行に変えた」などという経営者もいる。

このように継続的な運賃値上げ交渉や、運行形態の見直しなどを進めた経営者に共通するのは何か。毎日(週や月単位)の数値の変動から、変化の原因を読み取り、いち早く対応策を考えて行動している点だ。

原価を把握することは当然だが、売上が原価を下回っている原因を分析し、即時に対応して原価を上回る収入を得るように努力している。変化に即応した経営コントロールが経営者の重要な役割である。

では、そのような能力はどのようにして得られるのだろうか。これは常日ごろから学ぶという努力をするしかない。様ざまな分野の人たちとの人的なネットワークも重要だし、絶えずいろいろな情報を収集することも不可欠だ。

このようにして、経営者は1歩先を見る、1歩先を知るようにならなければいけない。

 

著者紹介


森田富士夫(もりた・ふじお)
1949年 茨城県常総市(旧水海道市)生まれ
物流ジャーナリスト 日本物流学会会員
会員制情報誌『M Report』を毎月発行