森田富士夫のPoint of View

将来性を感じさせる会社はここが違う③

従業員の足の動きで会社のレベルが分かる

ずっと以前の話になるが、当時、勤めていた会社の上司から、近くにできたばかりの飲食店に誘われたことがある。オープンして間がないのだが評判が良く、昼食や夕食時などは多くの客が順番待ちをしているというのだ。

仕事が終わってから上司に連れられてその店にいった。店内にも順番待ちの客用に椅子がたくさん並べられている。我われが店に入った時には、すでに順番待ちの先客が10人以上も椅子に座って待っていた。我われも椅子に座って席が空くのを待っていたのだが、上司が何も言わないので会話はなかった。なかなか席が空かないため待ち時間は長かったのだが、不思議にさほど苦痛を感じさせない店である。後からも客が次ぎつぎ入ってきて待っている。

しかし、である。この上司が「ただ飯」を食べさせてくれるはずがない。そこで、後で問われるであろうと思われる質問を頭の中にいくつか思い浮かべてみた。その結果、「長い時間待たされても嫌な気が起きないし、この店はなぜ繁盛していると思うか」、と質問されるのではないかと予想した。この上司ならそう来るだろう、という想定である。

そのうち、やっと席が空いてテーブルにつくことができた。すると案の定である。オーダーした食べ物が来るまでの間に、想定通りの質問がきた。そこで、即座に「待っている間、従業員の人達の足の運びを見ていたが、ムダな動きがなかった。だから店内の雰囲気が良く、待たされていても嫌な気持が起きない」と答えた。

どうやら口頭試問は合格だったようだが、良い店の従業員は一つの動作が終わると、すぐ次の動作に移り、その間にムダがないのである。だから雰囲気が良い。店で働いている従業員の動きにムダがあり、だらだらしていると雰囲気が悪くなる。

これは、どのような事務所や現場でも同じで、優れた企業の社員の動きにはムダがないのである。だから事務所や現場の雰囲気が良い。外来者からすると雰囲気が良いか悪いかということになるのだが、それだけの問題ではない。

動きにムダがないということは、一つの作業をしている時点で、その作業が終わったら自分は次に何をするかがすでに頭の中に描かれていると言うことである。つまり経営的には作業効率の問題でもある。

野球に例えると分かりやすい。名プレーヤーと言われるような外野手は、バッターが打った瞬間にフライの落下地点に一直線に走る。守備位置からボールが落下する地点まで真っ直ぐにムダなく移動してキャッチする。下手な選手は、ボールの落下点に行くまで蛇行して走ったりする。判断力が劣るからだ。

直線的にボールの落下点に到達すれば、余裕をもってキャッチできる。だから名選手のプレーは観戦していて気持がよい。だが、名選手は素人目にはファインプレイがないように見える。

それだけではない。名プレーヤーはフライをキャッチするよりも前に、捕球したらどこに返球すべきかを考えている。得点差、アウトカウント、ランナーの足の速さと位置や動作などから、どこに返球すれば失点を防げるか、あるいは相手に得点を与えてしまうとしても最少失点に押さえられるかなどを的確に判断できるのだ。

だから名選手の動きにはムダがない。上手なプレーヤーほどムダがないということで言えば、ゴルフは典型的だ。一番少ないスイング数で18ホールを上がった選手が1位である。これほど分かりやすいものはない。

たいていの経営者はゴルフをやるだろう。そして、ゴルフが上手くなりたいと努力している経営者は少なくないはずだ。ゴルフの上達に努力するということは、いかに少ないスイング数で18ホールを回るかに努力するということに他ならない。

だが、自分の会社の仕事も同じような視点から観ている経営者は少ないのではないだろうか。経営者自身も含めてだが、社員の動きにムダがないか、余計な動作をしないで最短距離(最少時間)で目的を達成できるように動いているかどうか、という見方をしているだろうか。ムダな動きがないと言うことは、効率よく働いているということに他ならない。

それは社外の人間から見ても、感じが良い、雰囲気の良い会社(職場)と言うことになる。この第一印象が大切だ。

 

著者紹介

森田富士夫
森田富士夫(もりた・ふじお)
1949年 茨城県常総市(旧水海道市)生まれ
物流ジャーナリスト 日本物流学会会員
会員制情報誌『M Report』を毎月発行