森田富士夫のPoint of View

将来性を感じさせる会社はここが違う①

会社に1歩入った時の「空気」

初めて取材で訪ねる会社でも、事務所に1歩入った瞬間にその会社の「質」などが分かるものだ。

老舗として長い社歴があり、企業規模も大きい。社屋も立派で、地元の名門企業。業界でも知名度がある。このような会社でも、事務所に1歩足を踏み入れた瞬間に、この会社は見かけほどではない、と感じたりするものである。

反対に、業界でもほとんど名前が知られていない中小事業者で、社屋も小さくお世辞にも立派とはいえない。大丈夫かな、と思いつつ事務所に入ると、その瞬間にこの事業者はこれから伸びてくる、と感じることもある。

あらかじめ経営者にはアポイントを取ってあるが、応対に出た社員に来意を告げると、その対応で「やはりな」と、入った瞬間の直感が正しかったかどうかが確信にかわる。それに対して、見かけほどではないと感じた会社は、さすがに社歴の長い老舗だけあって慇懃でそつはないのだが、何かに欠けている。一方、無名の中小事業者でも将来性がありそうだと感じた会社は、決して丁寧とは言えずごく普通の応対なのだが、なぜか爽やかで気持ち良いのである。だから入った瞬間の直感が間違いではなさそうだという確信になるのだ。

さらに経営者に会って名刺を交換し、まずは差し障りのない挨拶を交わす。そこで、直感が確認になる。取材の本題に入る前に、その会社が提供しているサービスのレベルなどがだいたいは予想できてしまうのである。そして実際に取材を進めて行くうちに、それが実証できるという次第だ。結果的に、判断が正しかったかどうかが証明されることになる。

このように初めての会社でも事務所に1歩足を踏み入れた瞬間に受け取る感覚を、筆者は「空気」と呼んでいる。あくまで感覚的なものであり、直感なので、言葉では的確に言い表せない。だから会社に入った瞬間の「空気」としか表現のしようがないのだ。

倒産情報などの企業情報サービスを専門に行っている、ある大手信用調査会社のベテランの人とその話をした時、全く同じことを言っていた。当時、同氏はすでに部長職にあったので、自分で直接企業を訪問してヒアリングをするようなことはほとんどなかったと思われるが、過去にはたくさんの企業を訪問している。

当方が優れたサービスを提供したり、業績を伸ばしている企業を主に取材するのに対して、同氏は経営が思わしくなくなった企業を主に訪ねるという違いはある。しかし、同氏も会社を訪問し、入った瞬間に「この会社は倒産するだろう」とか、「この会社は再建できるかも知れない」と感じるという。そして経営者にあってヒアリングすると、直感が間違っていないことを確信し、結果的にその直感はほとんど間違うことはない、というのだ。

ちなみに、同氏によると経営難に陥った理由を外部要因に求めるような社長の会社は、再建はまずムリと判断しても、間違うケースが少ないという。

同じように筆者も会社に入った瞬間に感じる「空気」は、間違いが少ない。これは職業柄身についた嗅覚とでも言うべきものなのだろう。

この「空気」は初めて訪問する会社だけではない。何度も訪ねている会社でも同じだ。何年かぶりに訪問してみると、前回とは違う「空気」を感じたりする。会社に入った瞬間に、「どうも経営が厳しそうだな」とか「最近は業績が良さそうだ」と直感するのである。

何度か訪ねていれば最初に応対してくれる社員の人も知っていたりする。顔を見た瞬間にすぐ対応してくれるのだが、やはり前回とはちょっと違うな、という感じを持つのである。入った瞬間の「空気」による直感を確信させるように、同じ対応でも社員の人の精神的な違いや心理的な差を敏感に感じるからだ。そして経営者に会って話を聞いてみると、経営状況が厳しかったり、反対に業績が伸びていたり、ほとんど直感が当たっている。

この「空気」の違いは何であろう。おそらく、業績が伸びている時と、業績が低迷している時では、社員のモチベーションが違うのではないか。いつもと同じように来訪者に応対しているつもりでも、微妙な心理的な差が現れてしまうのではないだろうか。

もちろん企業経営はいつも順風満帆とは限らない。厳しい局面に直面する時もある。しかし、経営が思わしくない時でも、苦境から脱する方向性が明確に示されていれば、社員のモチベーションはむしろ高まる。将来への方策がなければモチベーションは低下し、それが無意識の行動の中に微妙に現れてしまうのではないかと思われる。

 

著者紹介


森田富士夫(もりた・ふじお)
1949年 茨城県常総市(旧水海道市)生まれ
物流ジャーナリスト 日本物流学会会員
会員制情報誌『M Report』を毎月発行