森田富士夫のPoint of View

将来性を感じさせる会社はここが違う②

ファストフード店と高級料亭の挨拶の違い

実は、会社の中に1歩入った時に感じる「空気」は、その会社を訪ねる以前にだいたいのことが分かっているのである。

それはアポイントを取るために電話をした時から、会社の「質」などが分かるのである。初めての会社の場合にはとくにそうだ。従業員の個人差はもちろんあるが、最初に電話に出た人の応対で、社員のレベルが分かり、会社のレベルもたいがい予想できるものだ。

優れた会社は、電話応対でもこちらの趣旨をすぐに理解する。そして趣旨に見合った対応ができる役職の人に繋ぎ、その役職の人も的確な対応をする。レベルの低い会社では、最初に電話に出た人が、趣旨を正確に理解できず、その後の対応も要領をわきまえない。次に代わって電話に出る人もしかりである。そこで、訪問以前にその企業のレベルはだいたい予想できるのだが、実際に会社を訪ねて事務所に入った瞬間の「空気」でやはりと感じるのだ。

電話で直感できるという点では、何度も取材その他で会っている経営者も同じだ。知り合いの経営者から「話があるので会ってもらえないか」という電話がくることがある。会いたいという電話は、内容的に3つぐらいに大別できる。近くに行くので久しぶりに会いたいという内容か、新しい事業計画などを考案中なので参考意見を聞きたいという内容か、経営があまり良くない状態なので相談したいという内容かである。

知己の経営者からの「会いたい」という電話なら、用件を聞く前に、これら3つのどれなのかが電話の第一声でだいたい予測できる。そして、好ましくない内容で会いたいのだなと直感した時には、理由を聞かずに「できるだけ早い方が良いんでしょう」と言って、変更可能な予定は後回しにして時間をつるようにしている。この電話の声の直感も、ほとんど当たるのである。

このように会社の「空気」や経営者の「声」には、社員のモチベーションや経営者の心理状態が現れてしまう。重要なのは、苦境にあっても打開の方向性を持っているかどうかということではないかと思う。明確な展望があるなら、どの様な厳しい状況にあっても社員のモチベーションを高めることができ、経営者自身の精神状態も前向きになっている。それが無意識の言動に反映するのである。

会社の「空気」とも関連するが、来訪者に対する挨拶なども、その企業のレベルを表してしまう。

様ざまな事業者を訪ねると、中には社員が挨拶もろくにできない会社もある。とくに初めて訪ねた企業では、異邦人でも見るように品定めをするような眼差しを感じることもあるのだが、このような会社は、それだけで来社した客から逆に品定めをされているのだ、ということ知っておいた方が良い。

一方、訪問者にはその場にいる社員全員が大きな声で元気に挨拶する会社もある。これも、何か違うな、と感じてしまう。もちろん、挨拶もろくにできない会社よりはましなことは言うまでもない。しかし、何か違和感があるのだ。

来社した客に大きな声で元気に挨拶する。一見、社員教育が行き届いていて良い会社のようなのだが、これではファストフードの店に入った時と同じではないか。どうもマニュアル通りという観が否めない。

高級料亭ではこんな挨拶はしない(はずだ)。もっと客を迎える心がこもった挨拶をする。もちろん教育が行き届いているのだが、いかにもマニュアル通りという感じではない。挨拶が身についていて、ごく自然なのである。たとえ教育の結果であったにせよ、すでに自分自身のものになっているのだ。それだけで企業のグレードが分かる。

ところが、元気にハキハキと挨拶をする会社なのだが、挨拶した後の社員達の動きを見ていると、やはりマニュアル通りなのかどうかが分かってしまう。たしかに挨拶だけは元気な大きな声で良いのだが、その後の各人の仕事の動きがキビキビしていなかったりする。

挨拶も元気がないよりは元気な方が良い。しかし、ハキハキと大きな声で挨拶すれば良いと言うものではない。マニュアル通りにやらされているだけでは、部外者から見ると違和感がある。本当にその人のものになっているかどうか。当たり前のこととして心から客に対して接するようになっているかどうか。それによって、受け止め方や会社に対する評価が違って来てしまうのである。

著者紹介

森田富士夫
森田富士夫(もりた・ふじお)
1949年 茨城県常総市(旧水海道市)生まれ
物流ジャーナリスト 日本物流学会会員
会員制情報誌『M Report』を毎月発行